兼松株式会社Kanematsu Corporation.
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舞台はヨーロッパの航空業界。かの地で発揮された兼松の事業創造

Project of KANEMATSU04

篠原 亨 航空宇宙部 第一課 課長
1994年入社/理工学部機械学科卒
出身は茨城県、学生時代は野球に注力。就職活動ではF1のエンジニアを夢見て機械学科へ進むものの、もっと広い世界を求めて、次なる道を探していた。その時に見つけたのが商社だった。さまざまな人と会い、商社の時流に合わせた事業創造に面白みを感じたが、中でも個々の強みを一番強く感じた兼松の門を叩いた。

「航空機リース事業撤退」という大きな危機に対し、単なる事業縮小では終わらせまい、と挑んだ男がいた。目をつけたのは航空機本体ではなく、「部品」。それまで、商社に前例は無かった。欧州を舞台として、立ちはだかる幾多の困難や試練。今や航空宇宙部の柱へと成長した航空機ビジネスは、ある諦めの悪い男の情熱と執念から生まれたものだった。

「事業縮小」が残したモノ

今や、車両・航空部門の中でも柱の一つとなった「民間航空機向けの循環部品ビジネス」。その始まりは実に諦めの悪い兼松らしいものだ。

我々が日常的に移動手段として使用している自動車や電車。これらの修理工場が街中で散見されるように、飛行機にも不具合があれば常に部品を交換する場所がある。自動車に定期的な車検があるように、飛行機には定期的な部品交換サイクルや迅速な修理を必要とする場面がある。部品の数で言えば、自動車がおよそ2〜3万点であるのに対し、飛行機は5〜600万点。ましてや、飛行機がさらされている環境は上空1万メートルもの場所。機内を0.8気圧に保つため与圧を行っており、機体には負荷が常にかかっている。求められている安全性はかなり高度なものだ。我々がいつも事故なく、世界中のあらゆる国々に移動が出来るのは、これら莫大な飛行機部品が万全な状態で提供され続けているからなのである。篠原はこの事業規模・事業の優位性に目を付けていた。

2000年当時、時代は「商社冬の時代」と呼ばれており、兼松も生き残りをかけてビジネスモデルの変化に対応が迫られていた。部内では「航空機リース事業の縮小・撤退」という逆風が吹き始めていた。
「しかし、航空機リース事業から完全撤退し、築きあげた人脈まで手放してしまっては、次の一手を打つ可能性まで失いかねないとの危機感がありました」 2002年、民間航空機向け循環部品事業の立ち上げ当初から参画していた篠原亨は当時の危機感をこう語る。

航空機リースとは、兼松が保有する航空機を世界中のエアラインに貸し出すもの。この中で兼松が提供できる価値は、信用供与であり、多額の資金投資を要し、スケールメリットの効くビジネスモデルだ。航空機リース事業では、返却された航空機を次のリースに備えて完璧に整備しなおす必要がある。ゆえに長年事業を続ける中で、航空機整備に関する高度な技術を持ったエンジニアたちとの深い結びつきができていた。「彼らの技術力を生かして新しいビジネスを立ち上げられないか」。篠原は会社がビジネスモデルの転換を迫られていた時も、この一点を考えていた。

「単なる事業縮小に終わらせず、新たな一歩を踏み出すチャンスに変える道を模索し続けた結果、見出した一つの可能性。それが、航空機自体をリースするのではなく、航空機の部品、とりわけ修理を繰り返しながら何度でも再利用できる『循環部品』をタイムリーに提供するビジネスでした」

制約の中でこそ創造的なアイディアは生まれる

「世界的な最大手クラスの航空会社であれば、交換用の部品を大量に保管しておける場所と資本力がありますが、航空会社のほとんどは世界的な最大手ではありません。その数は約1400社にのぼります。一流エアラインのワンランク下に位置するエアラインの中には、交換用部品在庫が経営を圧迫しているところが少なくないことを知っていました」

そこで、篠原は兼松が生み出せる新たなビジネススキームを考えた。まずは商社である兼松が良質な循環部品を在庫として保有し、部品に不具合が生じたら顧客に代替部品を届ける。一方で、不具合で届いた部品は修理した上で保管しておき、次の要望が来たら別の顧客の部品とまた交換する、というものだ。顧客は大量の循環部品在庫を抱える負担とリスクから解放され、経営資源を有効に活用できるようになる。需要は間違いなく大きかった。

「突然の9.11。そして、」

いざ事業を起こそうとした場合に、抑えるべき事項は数えきれない。この事業が「市場や業界の魅力(規模、成長性、ニーズ及び顧客の存在)を押さえたものであるか」、「Key Success Factor(成功要因)や勝てる(儲かる)理由が明確か」、「リスク要因を押さえているか」、「事業の収益性が把握できているか」、「適切なFACT(エンドユーザーの生の声等)に基づく検証がなされているか」などだ。これらを念頭に最終的な社内承認を得るべく、書類を準備していく。ところが、これらに目途が立ち、この事業を行うための新会社設立プランを提案しようとした矢先、アメリカ同時多発テロが発生する。ワールドトレードセンターに航空機が激突する衝撃的な映像が世界中を駆け巡り、航空業界は一転不況へと突入した。市場の先行きに不透明感が増した中、”新会社設立”と”新事業の立ち上げ”には、たちまち暗雲が立ちこめた。

「一度失ってしまった関係性を元通りに戻すには、多大な時間と労力が必要です。会社として容易に許可を出せない事情は理解しつつも、こんなところで諦めることは出来なかったのです」篠原は当時の思いをこう振り返る。

事業の将来性や有用性が明るいことを納得してもらうため、入念な下準備を進め、初期投資額を抑えた方法をあれこれ思案してその思いを社内に伝え続けた。結果、ゴーサインが下りる。「100%の出資はリスクが高すぎる」という判断だったが、経営サイドも篠原らの思いに応えたのである。

「必ずしもハードルの低くないこの条件をクリアできたのには、実は兼松が協力会社のエンジニアと深い信頼関係を築き上げていた背景がありました。共同出資の提案をした際、これを快く受け入れてくれた理由はまさに先方がビジネスパートナーとして当社を信頼してくれていたからでした」

こうして2002年、アイルランドに、KG Aircraft Rotables Co., Ltd.(KGAR)が設立された。そして、篠原はアイルランドへと赴任した。「民間航空機向け循環部品交換事業」という、業界としても前例のないビジネスを軌道に乗せるために。

いよいよ事業の深化。求められたのは目利き力

航空機向けの循環部品事業を成功させるには、大きなポイントが2つある。①部品の調達先と②貸し出す顧客先の確保だ。

循環部品の調達先の多くは、在庫処分を検討している航空会社や航空機整備会社である。中古品を仕入れる際には、過去の整備履歴、摩耗具合や耐久性などを的確に見極める「目利きの力」が求められる。長年、航空機に携わってきた篠原とはいえ、この判断力だけはなかなか身に付かない。いつの年になっても日々勉強である。また、何でも調達すればいいというわけではなく、航空機市場のニーズの半歩先を行く市場予測が欠かせなかった。

「現状で最も多く利用されている航空機部品をそろえるだけではなく、次に流行るであろう機種を予測し、機体の定期整備スケジュールを読み、需要が増えるタイミングで既に部品が揃っていなければなりません。揃っていなければ、顧客のニーズに応える機会を逃してしまいます。とはいえ、こちらが余剰在庫を多量に抱える余裕はないので、業界の動向を見ながら「種類」と「数量」とを調整していかなければなりませんでした。しかし、欲しいと思った時に都合よく調達先が見つかるわけではない。そこが難しいところです」

例えばこんなこともあった。需要が伸びつつあるボーイング737クラシックの循環部品を調達するため、篠原がヨーロッパを中心に情報収集を進めていたとき。資金繰りに困っている航空会社がいることを知り、15億円分の在庫の調達に成功した。「これでB737クラシックに対するニーズにも十分対応できるとほっとした」その束の間、直後からLCC(格安航空会社)ブームが到来。調達先のグループ会社だったLCCの業績が大幅に好転。運行本数が増加して循環部品も大量に必要となったため、せっかく調達した部品の8割近くをリースバックすることになってしまった。

「一方で、今後必ずニーズが発生すると判断して調達した部品の顧客がなかなか見つからず、倉庫で出番を待ち続けている、ということもあります。航空機用ですから部品も大きく場所を取るので頭が痛い。現実は、机上で練り上げた戦略どおりには進まないものだと痛感させられています。でも、予測したとおり調達した部品が出荷されていくのを見たときは、我々の読みは正しかったのだと嬉しくなります」
篠原はスピーディーに変わりゆく世界に身を置きながら、商売できることを楽しんでいる。

顧客開拓にしても難しさは同様だ。資本力の点で最大手に及ばない企業が中心顧客となるため、どれだけ与信に細心の注意を払っても、時おり回収には苦労をさせられる。
「ヨーロッパ各地を駆け回り、中堅の航空会社に事業内容を説明して関係を構築していくのですが、相手は交渉巧者も多く、一筋縄ではいきません。この事業は、部品が届かなければ航空機を飛ばせないという緊急を要する状態で顧客から要望が届くことが多いため、基本的に後日決済とならざるを得ないのです。代金回収がすぐに出来ないというリスクを取らなければチャンスもあり得ませんが、動く金額が大きいだけに肝を冷やす場面も常々あります」

しかし、事業スキームに間違いがないことは業績が証明した。事業立ち上げ初年度から黒字を計上し、その後も売上は右肩上がりで伸びた。2014年10月にはB737型機と並ぶ、単通路型旅客機の大ベストセラーA320型機向けの循環部品の取り扱いを開始している。(写真) 現在は、LCCの参入によって、航空機の運行機数は世界規模で増加していくだろう。当然、兼松もアイルランドのKGARを拠点にアメリカやアジアへ拡充していくことが検討されている。わずか10数年前には、事業スキームすら存在しなかったビジネスが、今まさに大きく飛躍しようとしているのだ。

「スタートは、逆風の中での苦肉の策だったのかもしれません。しかし、市場の現在と未来を的確に予測し、人材というリソースを余すところなく活用できる事業スキームを考案できれば、将来大きな幹へと育つ事業の種を見出すことができる。この事業は、そのことを雄弁に語ってくれる手本になっていると思っています」

制約の中でこそ創造し得たビジネスモデル。どんな局面においても「お客様を第一」に、「事業創造」の志を忘れていなかった篠原の言葉は、兼松パーソンのプレゼンスの高さをありありと語ってくれている。

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