食品部門
NISHINOTSUJI
2012年入社
理工学部電子情報工学科 卒
苦しいローラー営業の末につかんだ突破口。
2016年、西之辻は、特殊な凍結技術を有する凍結フルーツを目の前にして、考えを巡らせていた。凍結フルーツとなったイチゴやオレンジは、2014年4月にバルセロナの展示会で、兼松のスペイン代理店が発見したメーカーの商品。普通の冷凍フルーツと違い、解凍後のドリップ(離水)が少ないというこの商品の特徴が、食品メーカーやヨーグルトメーカー等の新たな需要を喚起するに違いない・・・そんな確信にも似た推論を軸に、西之辻が所属するチームでは、あらゆる客先に向けて販売の可能性を探るローラー営業を行っていた。しかしながら丸2年間、まったく取引につながらない苦難の日々が続いていたのだ。「当時は、もう万策尽きたという想いでした(苦笑)。そんな土俵際で、ふと思い浮かんだのが、某大手リテールチェーンです。とは言え、我々はメーカー売りが基本で、大手リテールチェーンとの直接取引は視野の外。当然、コネクションすらない状況でした」
しかしながら、人とのつながりからビジネスを創出するのが商社の本質である。西之辻は迷うことなく直接電話をかけてアポイントを取り、担当バイヤーとの面談の機会を得た。そして、加工フルーツ分野での兼松の実績・実力をアピールするとともに、凍結フルーツの魅力を熱く語った。その時の様子について、担当バイヤーの反応は最初から良かったと西之辻は振り返る。「話を伺うと、健康志向を背景に、フルーツをそのまま食べるという消費者ニーズが高まっており、兼松が提案する凍結フルーツはそのニーズにぴったりマッチするということでした。・・・苦節2年からの逆転があるかもしれない!そう期待するに十分な手応えがありました」
メーカーの立ち位置で最終製品を販売する新しい試み。
その後、担当バイヤーから上層部にも話を展開してもらい、西之辻は、課長、代理店、サプライヤーの方々とともに、最初の商談に臨むこととなった。「取引開始の快諾を得た時の感動は忘れもしません。お客様のオフィスを出た瞬間、みんなでハイタッチして(笑)。その場で叫びたい気持ちを堪えるので必死でした」
これまでのメーカー売りではなく、エンドユーザーに直接つながる大手リテールチェーンに売る。兼松としてこの商売に取り組む意義は大きい。「兼松がメーカーという立ち位置で、最終製品を販売するというのは新しい試みです。商社として原料を輸入・販売して終わる取引ではなく、メーカーとして、販売後の品質管理から最終製品をパッケージングする包材デザイン、消費者対応までも担う。つまり、兼松が川上から川下まで商流を掌握し、ワンストップで商品を供給できる体制が整った訳です。これは、新たな付加価値や大きな収益を生むことに寄与していくはずです」
世界各地の現場に赴き、商品開発に奔走。
取引開始とともに、商品開発に奔走する日々が始まった。「最も苦労したのは、海外サプライヤーに日本人が好むフルーツの味を理解してもらうことでした。例えば、欧米人が大きくて固い歯ごたえのあるものを好む傾向に対して、日本人は熟しすぎているくらいの柔らかい状態を好む。また形も美しくて均一であることが求められます。そこで、海外サプライヤーを日本の有名高級青果店に連れて行き、その違いを体感してもらいました。また、直接現地の農家に赴き、日本式の選別基準を何度も指導しました」
今回扱うフルーツの産地は、世界各国に散らばる。イチゴ、オレンジはスペイン産、メロンはフランス産、グレープフルーツはトルコ産、パイナップルはフィリピン産という具合だ。そのためチーム内で分担して、原産地各国への訪問を繰り返し、兼松が求める厳しい品質基準を満たすための指導・確認を続けた。
その過程では、海外サプライヤーの担当者と、お互いが一歩も引けないタフな交渉の場面もあった。「例えば、サプライヤーからすると、選別基準が高すぎて歩留まりが悪くなるのは避けたい。しかし、兼松としても譲れない要件があります。それは、舌の肥えた大手リテールチェーンのお客様を満足させるクオリティを担保すること。お互いに矜恃を持って仕事に臨んでいる訳ですから、簡単に妥協なんてできないんです。・・・時には怒号が飛び交うような状況もありましたね(苦笑)」
世界的にメジャーな加工フルーツの供給者へ。
山積する困難や課題を、西之辻たちは情熱とチームワークで乗り越え続けた。そして迎えた2017年10月。西之辻たちが苦労を重ねてつくりあげた凍結フルーツ商品が、大手リテールチェーンの店頭に並んだ。「イチゴ、オレンジ、メロンといった多彩な凍結フルーツを品揃えできたのは、兼松のフルーツ加工品課が長年蓄積してきたサプライソース・ノウハウを提供できたからだと思います。一つひとつの商品ごとに思い入れがあるので、商品化までの思い出を肴にしたら、関係者全員と軽く2時間ずつは呑めると思います(笑)」
さらに、本案件が日本市場に与えたインパクトも大きいと、西之辻は続ける。「欧米では多彩な冷凍フルーツが店頭に並ぶのは一般的ですが、今回はエンドユーザーのニーズと合致したこともあり、日本では今までなかったカテゴリーを生み出すことができたと自負しています。また、消費者からのヒアリングといったマーケティングにまで踏み込めたことは勉強になりました。中でも、SNSで情報収集した際、飲み物の氷代わりに冷凍フルーツを入れたり、水に入れてデトックスウォーターにしたりと、自分たちが想像していなかった用途が出てきたのには驚きました」
西之辻たちの生み出したビジネスは、従来の原料用途、外食系用途に加えて、新たに小売用途の道を切り開いた。これは、兼松としてフルーツの三大用途カバーの実現を意味する。しかし、これは出発点に過ぎない。日本のみならず世界的にもメジャーな供給者として認知されるよう、サプライソースの拡大、販路拡大に取り組みたい。それが、西之辻たちチーム全員が描く未来だ。