鉄鋼・素材・
プラント部門
SHINDO
2006年入社
第一文学部 卒
駐在を終えたタイミングで舞い込んだビジネスチャンス。
大学生の頃、アメリカ留学を経験したことで進藤の将来の青写真が定まった。「日本の優れた技術をもっと世界へ広げていきたい」・・・そんな、芽生えた想いを叶えるべく臨んだ就職活動で出会ったのが、兼松だった。「世界と接点を持ちながらビジネスができるのはもちろん、会社の看板というよりは自分を看板として、仕事ができる。そんな期待と確信を持てました」入社して数年後、その期待は現実となり、進藤はアメリカ・シカゴへ駐在。5年弱の海外経験を通じて、入社以来手掛けてきた鉄鋼分野・自動車産業への知見を、より深めてきた。そして2013年、日本へ帰任して間もない頃に、進藤にある情報が舞い込んできた。
それは、欧州の世界的自動車部品メーカーA社が、アジアの生産拠点で使用する鋼材を、従来の欧州からの輸入ではなく、アジア圏内からの調達に切り替えようとしているというもの。進藤は、早速情報収集に着手し、並行してサプライヤー探しに奔走することになった。「当時から、大きな成長が期待されていた中国市場での生産能力拡大・調達のローカライズというのが、A社の目的でした。世界中にさまざまなライバルがいる中で、自分たちはどのような条件の提案ができるか?そのための仮説・検証を繰り返しながら、パートナーとなるサプライヤーの検討と接触を繰り返していきました」
新たなサプライチェーンの構築へ。
このプロジェクトは言うなれば、新たなサプライチェーンの構築と同義。世界的な自動車部品メーカー、ひいては世界的な自動車完成車メーカーが要求する厳しいサプライヤー基準をクリアする必要があった。加えて、今回はビジネスの規模が大きいこと、安全保安部品と呼ばれる微細な技術を求められるものであったことなどから、相応の技術力・信用力が求められた。進藤が注目したのは、日本国内部品メーカー向けに確かな実績を持ちつつ、数多くの知見を有していたB社。早速、商談を持ちかけると前向きな反応が返ってきた。というのも、B社としても更なる成長分野として、海外市場でのシェア拡大が重点課題として議論されていたからだ。
「ある意味、絶好のタイミングだったのかもしれません。海外需要家の開拓といっても、内実は商習慣・法律などの違いがあるため非常にハードルが高く、需要家から要求される膨大な契約書を見ただけで尻込みをしてしまう国内企業もたくさんありました。ただ、そういったパートナー企業の海外進出のオーガナイズは兼松が得意とすることころでしたし、自分の海外駐在経験が活きる領域でもありました。さらに兼松は中国だけでなく、全世界に海外拠点を構えており、これらインフラを活用して情報収集出来ることも、新たな需要家開拓において強みとなりました」商社のミッションは、優れた日本の技術を海外へ伝播していくことでもあると、進藤は続ける。その体制を整えるべく、進藤は、A社の本社があるヨーロッパや、現地法人のある中国への渡航を繰り返していった。
成約に要した時間は3年。海外渡航は40回におよんだ。
『日本は信用文化、海外は契約文化』これは商習慣や業界慣例の違いを表現する際に、しばしば異口同音で用いられる。今回のプロジェクトもご多分に漏れず、クライアント・サプライヤー双方の合意内容を膨大な契約文書に落とし込んでいく必要があった。社内の法務部門のサポートを仰ぎつつ、資料の作成をしては、A社とネゴシエーション。その結果を踏まえてB社との条件の再確認をし、再度法務部門との協議を経て契約文章のドラフトを作成。・・・このサイクルを粘り強く繰り返し、双方の妥結点見出していくプロセスに、結果として3年の月日を要することになった。
商談が重要な局面を迎えた際には、2泊5日の強行日程でヨーロッパへ飛ぶ、日本への帰国便を急遽キャンセルして現地滞在を延期する、といったことも実際にあったと進藤は振り返る。「中国滞在中に、アポイントがないにもかかわらず、A社のオフィスビルのカフェに連日赴き、商談に動きがあれば直ぐに担当者を捕まえて面談を持つ、といったこともやりました。商社=海外に強いといったイメージを持たれる方もいるかと思いますが、世界の競合他社を相手に競り勝って、新たなビジネスを構築していくためには、地道な努力や泥臭さを伴う胆力は欠かせないものです」どんな困難があっても諦めずに粘り強く取り組むこと。言うは易しだが、この気概こそ商社パーソンに求められる要件であると、進藤は語気を強める。
「結局は信頼関係。そして信頼は容易に構築できないものなんです。」価格交渉はもちろん、契約に伴う法務関係のやり取り、物流スキームの構築、品質監査・認証対応など、多岐にわたる業務を文字通り地道かつ愚直に摂り進めていった結果、進藤が成約に至るまでに海外へ渡航した回数は40回にもおよんだ。
相手の期待を超えていく。そのために愚直に歩む。
「商談の最終局面において、数年やり取りをしてきた顧客側の中国現地法人の購買担当者から、『あともう少しだから、がんばって』と、労いのメールをいただきました。交渉の相手側の方ですから、本来私を応援してはいけない立場の人です。その高い垣根を超えて、個人的な応援メッセージをいただけたことは、大きな励みとなりました」
アメリカの駐在時代にも似たようなエピソードがあり、その時も目頭が熱くなったと進藤は言う。「相手から信頼を得るに値する行動を自分はしているか?」そう進藤は自問自答することをルーティンとしつつ、相手の期待を超えていくことを自分に課している。それは、信頼こそビジネスを生む最も大きなファクターであることを経験則上知っているからだ。今回の大型案件成約も信頼なしに成立はしなかっただろう。
「海外の競合メーカーも実力を高めており、良いものなら売れるというシンプルな方程式が成立しないことも増えてきました。ものを売るではなく、課題に応えていく。お客様に寄り添い、ともに未来を模索していく・・・そんな役回りが今後ますます兼松に求められていくと思います」だからこそ、今後ますます信頼が価値を帯びてくる。そして信頼を構築していくことこそ、商社パーソンの普遍の本質であると、進藤は確信している。