車両・航空
2006年入社
工学研究科専攻 修了
与えられた期間は一週間。
約束の日までに部品を納入せよ!
その依頼は、2013年夏、杉山がシカゴへ赴任したばかりの時期に飛び込んできた。「兼松が日本メーカーのクラッチを供給している、米国の大型バイクメーカーのお客様からの依頼でした。ブラジル向けにCKD(Complete Knock Down)を開始したいと」
CKDとは、関税を安くする手法のこと。組み上がったバイクをブラジルに輸出すると、高い関税がかかるが、部品のままブラジルに送り、現地で組み上げると関税が安くなるのだ。そのため、クラッチも部品ごとにばらした状態での出荷が求められた。
しかし、杉山は事前にその連絡を受けておらず、シカゴ支店にストックしてあるのは当然、組み上がったクラッチのみ。時間はたった1週間。そんな中、2,000台分以上ものクラッチを部品状態にばらし、お客様先に納入するにはどうするか? 杉山は途方にくれた。だが、やるしかない。杉山はクラッチを前に手袋をはめ、タイマーを片手にネジを一本ずつ外していった。「到底一人では対処できないと、すぐに打ちのめされました。そこで、スポットで人を雇って乗り切ることに活路を見出すのですが、分解の作業内容を把握しなければコーディネートも指示もできません。また、バラして梱包する際に、傷が付く可能性も出てきたため、日本のメーカーに問い合わせるところから始めました」
そうして把握した作業内容を基に、杉山は必要な人員の把握、マニュアル作成、梱包資材の確保等を迅速に進め、現地のアメリカ人を数人短期雇用し、作業プロセスを立ち上げた。「作業の指揮を執るにあたって心がけたのは、とにかく自分が率先してやる姿勢を示すことと、相手の話に耳を傾け、誠意をもって応えることでした。ノウハウなんて無いですから」
そんな杉山の懸命で地道な仕事ぶりがスタッフに伝播し、困難に思われた作業に明るい兆しが見え始める。そして日に日に作業効率が上がり、約束の日に2,000台分のクラッチの部品を無事に納入することができたのだ。クライアントの要望に何としてでも応えたい。そして、交わした約束は何があっても守るという彼の誠意と信念によってもたらされた怒濤の1週間・・・それは、今も継続する大手大型バイクメーカーと兼松の良好な関係につながっている。