職能(主計)
1992年入社
政治経済学部経済学科 卒
5年に渡るM&A交渉を成功に導き、
油井管ビジネスの拡大に貢献。
2003年から2007年まで、蔦野はニューヨークにいた。兼松の米国会社へ、財務・主計・税務担当として赴任していたのである。
当時、米国経済は好調な時期。加えて、兼松の米国会社には資金の余裕があった。そうした好環境の中で、蔦野はM&Aの実施経験を数多く積む機会を得た。「事業買収をする上で、米国会計・税務や法務等の知識不足を感じ、米国CPA(米国公認会計士)を勉強して取得しました」
ボーイング737型機の売却、ステンレス鋼材卸売会社の売却、電子や航空機部品等の子会社設立など様々なM&Aに関与する中でも、蔦野の印象に強く残っているのが、北米での油井管【*1】工場の事業買収だ。「日本から粗管を輸出して、北米の油井管工場で加工し、販売会社が商品として売る。このバリューチェーンは、兼松の油井管ビジネスをさらに拡大する上で重要な鍵を握る案件でした」
買収金額は実に約100億円。当時の兼松において史上最高額の投資であり、まさに大勝負だった。ところが、買収交渉は一筋縄ではいかなかった。「売り主との合意に至らず、交渉が決裂したのは一度や二度ではありませんでした。リーマンショックによって交渉が中断した時も、印象に残っています。しかし、その後原油価格が上昇に転じたため、その年のうちに再度交渉のテーブルにつくことができました」
紆余曲折がありながらも、交渉は最終段階へ。いよいよ売り主側との合意ができそうなタイミングで、また想定外の問題が持ち上がった。「北米(ルイジアナ州)の地中鉱業権問題が起き、地中何メートルから下を留保するかで交渉が長引いたのです」
しかし、交渉はすでに5年の年月を重ねている。ここで諦めるわけにはいかない。蔦野は、外部のファイナンシャルアドバイザーや、兼松の法務担当と策を講じ、売り主側と再度、地道に交渉を続け、最終的に別契約で合意して買収を完了した。この案件は後に社長賞を受賞。油井管ビジネスはさらなる拡大を遂げ、今では兼松の主力事業の一つとなっている。
「諦めずに粘り続ければ活路が開ける」5年に及ぶM&A交渉で蔦野はそう確信。今、蔦野はその経験を活かし、執行役員の立場で兼松の事業投資を牽引している。
【*1:油井管】油井やガス井で、石油や天然ガスを採取し、汲み上げる際に使用されるパイプ。地中や海中などの厳しい環境下における耐食性が求められる。